難波一族記【1】~経遠編~ 第二章 出会い

2.出会い

こんな事があるのか、暗黒が広がる暗闇の嵐の夜、未だ嘗てみたこともないような大きな波に襲われて自分達の船が次々と飲み込まれていく。たちまち海の藻屑と消えていく・・・。まさに悪夢であった。
難波四郎経信は目覚めると夢と分かって安堵したのと同時に、侍女に茶を持って来るように促し、なぜこんな夢を見てしまったのか・・・と昨夜の夢を思い出していた。
経信は『今までちと強引に勢力を延ばし過ぎたか?恨みをかっておるのかのう・・・』といつになく弱気な事を呟いていた。

現在、経信は備前目代を務めており、この備前地区の代表的な存在であった。
また一族でかの吉備津彦神社の社司をも務めており、吉備津彦神社の目の前に船着場を築いて、この海域の難所を渡る際の守り神として通行する際は立ち寄ってお布施をする事を慣習とさせていた。そんな事もあり、この吉備の穴海を想いのまま牛耳り、莫大な資金を得てこの海域を中心として著しく繁栄していた。

しかし、最近はというと体も衰えそろそろ息子達に家督や家業を継がせようと考えていた。
幸いな事に経信は三人の健康な男児に恵まれていた。長男・太郎経友。次男・次郎経遠。三男・三郎経房。『何れが継いでも安泰であろう。だが次郎、三郎は少々気が荒すぎる。やはり長兄の太郎が心穏やかできめ細やかで長く家が繁栄するだろう』などと侍女が持ってきたお茶を飲みながら想いを巡らせていた。
まあ柄にもなく、こんな弱気な事を考えておるからあんな夢を見たのだろうと気に留めない事とすると安堵したのか再び眠気を催し笑みを浮かべもう一眠りする事にした。

それから数日の事であっただろう。
経遠、経房がいつもの通り、海へ出て回遊し、この海域を通る船を吉備津彦神社へ向かうように誘っていると、今まで見たことがない様な巨船が大量に押し寄せてきた。
『兄者、大変だとんでもない数の船が押し寄せて来てるぞ!!』、『あの数は只者じゃねぇぜ。ましては俺達の停船命令を無視して突き進んでくる。どうする?』っと経房。
『いつもの様に知らしめてやるかの。撃退あるのみじゃ!!』っと勇んで経遠。
しかし、集団の巨船からの攻撃にこの海域を知り尽くした兄弟も苦戦を強いられ、
『これは一大事じゃ。早く親父や兄者に伝えねば・・・』と兄弟は命からがら逃れるのに精一杯であった。

やがてこの巨船は吉備津彦神社の目前にて停船し、中から使者がやってきた。
経遠、経房から報告を受けていた経信、経友は『あれは唐船じゃ。お前らとんでもないものを相手にしたな』と呟く。
冷静に使者を受け入れた経信と経友はその使者が手にした書状をみて目を疑った。
相手はなんと白川法皇にて西方の海賊追捕使に命ぜられ山陽道・南海道の海賊討伐にやってきた備前守・平忠盛であったのである。
経友は今度の相手ばかりは流石にまずいと即座に感じ取り、経信はあの夢はこの事を予兆するものであったか・・・と感じ入った。
時に大治四年(一一二九年)五月の事であった。

※この物語はフィクションです。

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