難波一族記【1】~経遠編~ 第二十四章 平治の乱・六波羅合戦
24.平治の乱・六波羅合戦 平治元年(一一五九年)十二月二十六日。 京の空には、戦の煙が立ち込めていた。 待賢門での激戦を経て、戦いの中心は平家の本拠・六波羅へと移りつつあった。 源義朝の軍勢は、なお勢いを失っていなかった。 義朝の嫡男、鎌倉悪源太義平。若くしてその武勇を天下に知らしめた猛将は、父とともに平家を追い詰めんと進軍していた。 一方、六波羅では平清盛が諸将を集め、戦況を見極めていた。 「源氏は、なお攻め寄せてくるであろう」 清盛の低い声が響いた。 「されど、ここは我ら平家の本拠。決して破らせてはならぬ」 諸将は深く頭を下げた。 その中に、難波次郎経遠、難波三郎経房、そして瀬尾太郎兼康の姿があった。 「次郎」 清盛が経遠を呼んだ。 「そなたには重盛の軍勢を支えてもらいたい。敵の動きを見極め、兵を乱すことなく戦え」 「はっ。必ずや重盛様をお支えいたします」 経遠は静かに答えた。 清盛は続けて経房を見た。 「三郎。そなたの武勇も頼みにしておるぞ」 「お任せくだされ!」 経房は力強く答えた。 その隣で兼康が豪快に笑った。 「清盛様! 我ら備中の武者、源氏ごときに後れを取るつもりはござらぬ!」 「ははは。頼もしいことよ」 清盛の口元にも、わずかな笑みが浮かんだ。 だが、その目には戦を制する者の厳しさが宿っていた。 やがて、平家の軍勢は六波羅の陣を出た。 先陣には清盛の嫡男、平重盛が立った。 若き重盛は甲冑をまとい、馬上から諸将を見渡した。 「者ども! 今日の一戦に平家の命運が懸かっておる!」 その声に、兵たちが一斉に応じた。 「重盛様!」 経遠が馬を寄せた。 「敵の動きは激しゅうございます。突出なされませぬよう」 重盛は経遠を見た。 「次郎。そなたは祖父の代より、我が家によく仕えてくれておる」 「恐れ入ります」 「此度も頼むぞ」 「命に代えましても」 重盛はうなずき、前方へ馬を進めた。 経遠はその背を見送りながら、弟に声をかけた。 「三郎。重盛様の左右を固めよ。敵が押し寄せても、深追いはするな」 「兄者。またそれか」 経房が苦笑した。 「分かっておる。だが、敵が目の前に現れれば、太刀を抜かずにはおれぬぞ」 「抜くなとは申しておらぬ。退くべき時を見失うなと言うておる」 「承知した!」 兼康が二人の間に馬を寄せた。 「次郎殿。三郎殿の勢いを止めるのは、源氏を...