難波一族記【1】~経遠編~ 第二十三章 平治の乱・待賢門

 


23.平治の乱・待賢門

平治元年(一一五九年)十二月二十六日。

京の都に、再び戦の鬨の声が響いた。

二条天皇を六波羅に迎えた平家は、ついに源義朝・藤原信頼の軍勢へ攻撃を開始した。

目指すは大内裏の待賢門。

平家の先陣を率いるのは、清盛の嫡男・平重盛である。

その軍勢には、難波次郎経遠、難波三郎経房、瀬尾太郎兼康の姿もあった。

「次郎殿!」

兼康が馬を寄せてきた。

「いよいよ源氏と決着をつける時じゃな!」

「ああ。だが太郎殿、此度の敵は手強いぞ」

経遠は前方を見据えた。

「源義朝は保元の乱でともに戦った武将。その強さは我らもよく知っておる」

「ならば、なおさら面白い!」

兼康が豪快に笑う。

その横で経房が太刀の柄を握った。

「兄者。義朝の倅に、鎌倉悪源太と呼ばれる男がおるそうじゃな」

「源義平か」

「深追いするな! 左右の守りを崩すでない!」

一方、兼康は別の手勢を率いて前進していた。

「者ども! 重盛様に続け!」

その後方では、経房が郎党を従え、兄の合図を待っていた。

「兄者! まだか!」

「待て、三郎!」

経遠は戦場の奥を見つめた。

退いていく源氏勢。

だが、その動きに違和感があった。

「あれが……悪源太か!」

義平は一切ためらわなかった。

重盛の軍勢へ向かって、真っすぐに突き進む。

「重盛! 勝負じゃ!」

凄まじい勢いだった。

平家の武者が次々と迎え撃つ。

だが義平は怯まない。

「頼む、太郎殿!」

経遠は即座に兵を割いた。

「三郎! お前は右から回れ! 義平を重盛様へ近づけるな!」

「承知!」

経房がついに馬を走らせた。

郎党たちがその後に続く。

だが、その間にも義平の勢いは衰えない。

重盛も決して退くまいと太刀を構えた。

「源義平! 相手になろう!」

二人の若き武将が、戦場の中央で激突した。

清盛の嫡男・重盛。

義朝の嫡男・義平。

平家と源氏の次代を担う者同士が、互いに譲らぬ戦いを繰り広げる。

しかし、義平の猛攻は凄まじかった。

重盛の軍勢は押され、ついに大宮大路へと後退を始めた。

「待て、悪源太!」

経房は馬を進めようとした。

だが、義平の追撃はあまりにも速い。

わずかな騎馬で大軍を押し返すその姿に、経房は驚きを隠せなかった。

「……あれほどの男がおるとはな」

その声には、恐れよりも興奮があった。

経遠が駆け寄る。

「三郎! 追うな!」

「兄者! このままでは!」

「今は重盛様の軍を立て直すことが先じゃ!」

経遠は後退する郎党たちへ声を張り上げた。

「隊列を崩すな! 負傷した者を置いていくな!」

兼康も兵をまとめながら馬を寄せた。

「次郎殿! あの悪源太、まことに恐ろしい男じゃ!」

「うむ。だが、戦は一人の武勇だけでは決まらぬ」

経遠は六波羅の方角を見た。

そこには、平家の棟梁・清盛がいる。

「我らの戦は、まだ終わっておらぬ」

その言葉に、経房は太刀を握り直した。

「兄者」

「何じゃ」

「次にあの男と出会った時は、俺が相手をする」

経遠は弟を見た。

経房の目には、激しい闘志が宿っていた。

「……まずは生き残れ、三郎」

経遠は静かに答えた。

待賢門での戦いは、源義平の凄まじい武勇を世に知らしめるものとなった。

だが、平家の軍勢はなお健在であった。

そして戦いの舞台は、いよいよ六波羅へと移ろうとしていた。

※この物語は史実をもとにしたフィクションです。




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