難波一族記【1】~経遠編~ 第十一章 勝者の顔
11.勝者の顔 保元元年(一一五六年)七月十一日、京。 白河北殿での戦いを終えた経遠・経房・瀬尾兼康は、それぞれの軍勢を整え、平清盛の陣へと戻った。 陣中には勝鬨が響き、武功を立てた武士たちが互いの働きを称え合っていた。 「経遠! 三郎! 清盛様がお待ちじゃ。参ろうぞ!」 兼康はいつもの豪快な声で二人を呼んだ。 経遠は郎党に負傷者の手当てと戦死者の確認を命じ、経房も自らの手勢をまとめてから兄のもとへ駆け寄った。 「兄者! 我が隊も、ようやく落ち着いたぞ!」 「ご苦労であった。お前の働き、見事であったな」 「何を申す! 兄者の采配があってこそじゃ!」 兼康が二人の肩を叩いた。 「お主ら兄弟は、まったく息が合っておる! わしの兵も負けてはおらなんだぞ!」 三人は顔を見合わせて笑った。 やがて清盛の前に進み出ると、それぞれが戦況を報告した。 経遠は敵の動きと各隊の配置を、経房は前線での攻防を、兼康は自らの軍勢の戦果を伝えた。 清盛は満足げに頷いた。 「三人とも、よくぞ働いた。此度の勝利、そなたらの働きあってこそじゃ!」 「ありがたき幸せにございます!」 三人は深く頭を下げた。 「特に経遠。兵をよく統率し、乱れた戦線を立て直したと聞く。見事な采配であった」 「恐れ入ります。経房と兼康殿、そして郎党たちの働きによるものにございます」 「はっはっは! 経遠は相変わらず謙虚じゃのう!」 兼康が笑うと、清盛も声を上げた。 だが、経遠は続けた。 戦の前には、誰よりも多くの敵を討ち、武功を立てることばかり考えていた。しかし今、その胸には、帰らぬ郎党たちの顔が浮かんでいた。 陣を辞した三人の前には、再び勝利を喜ぶ武士たちの姿が広がっていた。 「経遠。此度の働きで、我らの名もいっそう高まろうぞ!」 兼康が笑った。 「そうじゃな。されど、まずは郎党たちを無事に帰してやらねばなるまい」 経遠の言葉に、兼康は静かに頷いた。 そのとき、陣の外から一人の老女の声が聞こえてきた。 「どなたか、息子を見かけませなんだか……」 経房が足を止めた。 勝利に沸く陣の外では、戦いが終わってもなお、大切な者の帰りを待つ人々がいたのである。 三人は顔を見合わせ、声のする方へ歩き始めた。 ※この物語はフィクションです。